タイトルと読書体験に泣かされるとの評に興味を惹かれて本書を手に取った。
読書体験(物理)か?とも思ったがそうではなかった。
ゴリラであることの描写がなければ、カメルーンからアメリカへの理想を抱いて
彼の地へやってきた若い女性のストーリーと言われても遜色ない。
だが、それだけではありきたりなストーリーになりそうなところだが、
これが人間の女性ではなくゴリラの雌が主人公であることで、話の中で起こる
出来事ついてヒトの権利とはどういうものかを考えさせられる。
端的にストーリーを搔い摘むと、手話で言葉を覚えたゴリラがジャングルで暮らし、
気になるオスゴリラとの甘酸っぱい経験をし、
父親である群れのボスをなくしたりした。
手話を音声に変えるツールを入手して、アメリカに渡るチャンスを得た。
ただ、アメリカに渡る前に気が掛かりがあった。
そう、過去に甘酸っぱい経験をしたオスゴリラのことである。
なんとか再開を果たしたオスゴリラは、かつてよりも逞しく、貫録を伴っていた。
そこはかとなくいい雰囲気になったが、そこで衝撃の事実が。
かつて同じ群れで生活していた姉妹のゴリラが既に伴侶になっていた。
NTRである。
ゴリラの世界では一夫多妻が当たり前ではあるが、知恵をつけてヒトの感覚に
近づいていた主人公にとってはこの事実がショックだった。
これでアメリカ行きを躊躇させるものがなくなった。
渡米後はとある動物園で過ごすことになった。
そこでなんとか群れになじむことができ、その群れのボスを愛するようになった。
だがここで悲劇が起こる。
小さな子供が柵をすり抜けてゴリラパークに侵入してしまう。
騒然とする来園者たち、それによって興奮するゴリラたち。
ボスであるゴリラが子供を引っ張っていく。
子供を守るため、1発の銃弾がボスゴリラの心臓を貫いた。
愛するゴリラを失った主人公は動物園側の対応を巡って裁判を起こした。
以上が中盤までの概略である。
あまり本編に触れすぎても、これから読む人たちの読書体験を損なうので、
その後を超ざっくりと述べると、大切な人を失ったヒトのように、
やさぐれて、絶望から奮起して立ち上がり、ヒトになった。
法とは?ヒトとは?この話全体が指し示すところは?
読後に色々と考えさせられてしまうが、文体や話の展開の仕方など
ムリなくするすると読める。
久しぶりに楽しくストーリーを楽しめた1冊だった。
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